車窓で  小野十三郎


尾の道。


いつも悲しく


夜すぎる町。


あの島、この島。


小高い丘の上まで


点々と灯がつらなっている。


かすかに潮のかおりのただようところ。


夜霧のかかった車窓にもたれて、


すぎゆくともしびの町を見る。


そして思う。

 
 あのうるむ灯のなかに

 
 うしなわれた人間の夢と

 
 幸福がある

 
 いつかわたしは

 身軽な旅人の姿で

 ここにおりたとう

 いつかきっと

すぎゆく尾の道の夜の灯よ


その日まで。


小野十三郎


詩人 大阪市生まれ


戦後 大阪で若い詩人を育て 大阪文学学校を創設


第一詩集「半分開いた窓」以後多くの詩集がある


詩論集「詩論」では 短歌的叙情への否定


詩における批評精神の形成を唱えた
(石碑文より)

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